「悪人」

渋谷 TOHOシネマズ シャンテ にて。

長崎の田舎街で
祖父母の面倒をみながら
ただ、退屈な日常を送る祐一(妻夫木聡)は
車と出会い系サイトしか楽しみがなく、閉鎖的な性格で絶望的な顔をしている。

同じように、狭い街から逃れることなく、佐賀の田舎街で暮らす光代。(深津絵里

この二人がで出会い系サイトで知り合って初めて会う事となる。

祐一が他の出会い系で知り合った若い保険会社で勤める佳乃(満島ひかり)を殺してしてしまった後に。

出会ってすぐにホテルに行って、たった一度のセックスで
二人は惹かれあい、求めあい
戻れないくらい
お互いを必要とした。

あまりにも似た者同士だったから。


「本気で誰かと出会いたかった。」


我がまま自分勝手、人を見下してバカにして
頼み事をする時だけ親にいい顔をして
気に入った男にだけ媚びて
この女は、人をバカにするけど、バカにされるのは何がなんでも許せない。
佳乃は祐一を罵倒しまくって
殺される。

佳乃が気に入ってたイケメンおぼっちゃま大学生、増尾岡田将生)は
親の金で粋がってるマザコンヘタレ男。
精神年齢があまりにも低く、
佳乃を尻軽でウザイとバカにするが、自分が殺したのかもしれないと
逃亡を測る。

そして
被害者となって佳乃の父(柄本明)はどうしようもない怒りに我を忘れ
加害者となった祐一の祖母は、彼の優しさをただ黙って信じる。

どうしようもないくらい大切な人を想う気持ちが
交差して、絡みあう。

本当の「悪人」とは ?



なんとも悲しい話です。
殺人をいうキーワードだけで
「悪人」を決めてしまうのはあまりにも浅はかなマスコミ的な発送で、
それぞれのそれまでの人生がその人格を形成し、
そして、自分でどうする事も出来なかったその人生を恨んでも
明日の希望を見いだせない。

そんな祐一と光代の逃避行が絶望的で反社会的である事はわかっていても
どうしても離れたくないって
その緊迫した、それでもそれまで見せなかった優しい表情が
苦しさを増して行く。


殺人を犯した祐一より
殺された佳乃の方が圧倒的に悪く描かれていて
祐一に同情心が湧く。

そんな悪い娘でも
娘の実態を何も知らなくても、
親という生き物は、
どんな形であれ、生きていてほしいと思うものなんだと思う。

そしてまた、いくら殺人を犯しても
優しさを信じたいものなんだと思う。


今の閉鎖的な人間関係と、リアルのない簡単な出会いが
現代を反映していて
悲しい日常をただ、助けてくれるそんなツールであったらいいものの
格差がひろがり、
人を見下したり、比べたり、
ちょっとづつ培われるべき人との交流がチグハグになってきてしまっている。


せめて、祐一が誰よりも早く光代と出会っていたなら。

殺したりしなければ。


不器用すぎる彼の優しさが光代にきちんと届いていますように。


この映画に出てくる役者陣、全て素晴らしかった。
あんまり好きになれなかった妻夫木の暗くて気持ち悪い感じが
これまでの印象からはまったくなかったリアル感があった。
希望を持てない肉体労働者を見事に演じていたのではと。
急に切れたり、その不安定さがとてもリアル。
あの金髪もまるで気にならなかった。

どっかで女優賞をもらった深津絵里だけど
可哀想で悲しくて、痛々しい。
どんどん落ちていくも
それでも初めて求めた他人を諦められないっていうその顔が美しくも悲しくて、辛い。
素晴しい。

満島ひかりは、性格悪くて腹が立って完璧ではないかと。
まだあまりにも幼く、善悪に鈍感なわがままでヒステリーな若者っぷりがたまらん。
あんまり美人じゃないのがまたいい。

逆に岡田将生はイケメンなのにヘタレの性悪ってギャップが良かった。
こいつは間違いなく悪人だった。
悪役をもっとやったらいいのに。

そして鳥肌もんが親目線の
柄本明樹木希林
これはもう圧巻。
観ないと損ですな。

なんとういう素晴しいキャスティングでしょう。
外れなし。


ちょっと祐一と光代が逃避行するに至るまでさすがに早すぎねぇか?
って思わずにはいられないってのはあるけど

妻夫木の髭が青くて、つーか青くならんで延びなきゃダメでないか?
って突っ込みがあるけど


これまでの作品でこれが一番とは言えないんだけど
私はやっぱり李 相日の作品が好きだ。


ちなみの白い灯台がウチの実家からほど近い
五島列島の端っこにあります。
今度行ってみよう。

辛くて悲しい

いい、映画でした。