「聯合艦隊司令長官 山本五十六」

丸の内TOEIにて。

あの悪名高き真珠湾攻撃の奇襲作戦の立案者、山本五十六

どんな事をしても開戦を回避したかった彼が何故、
どんな思いでアメリカに挑んだのか。

そして、覚束ない、あまりにも混沌としたこの国の未来をどう思い、どう描き、
死んでいったのか。

あの戦争は、なんだったのか。


この国の人はだいたい、山本五十六という人が好きではないだろうか。
私も好きです。
そうでないものもあるけど、私が読んだ戦争ものの本で、彼を悪く書いているのをあまり読んだ事がない。

反論、異論あるにしても、
この時代に、この人格はなんとも捨てがたい逸材だったと、私は認識している。
そんな彼が、あの戦争とどう向き合ったのか。
どう進んだのか。
役所広司が貫禄の演技で、また山本五十六ファンを増やすような映画となっている。


彼の軍人らしからぬ柔和な人柄と、
突飛で奇抜な作戦、
先見の明
そして、講和(平和)への願い。

井上成美、米内光政と共に、
完全にトチ狂い出した軍人達をインテリジェンスにかわし
三国同盟に反論するも、
世界中の戦争への流れからもはや山本一人では
開戦を止める事は不可能となった。
客観的に世間を見るべきエリート新聞記者でさえも、この国の開戦推進ムードに一直線。

ならば、せめれ早期講和を。


正直、この映画を観ての新発見は何もない。
若い世代に観せるには少し退屈な感じもするので
これは山本五十六ファンの為の映画という印象である。

実はアメリカへの伝達がなんらかのミスで上手く届かず結果「奇襲」とされてしまった経緯、
優しい人柄、甘いもの好き、将棋好きなんかはもう有名な話だ。

でも、引き込まれるのは多分
このような人を今、求めているからかもしれないと、思う。
正論、正義が届かないこの時代だからこそ、今この人だったんではないか。
情報操作や、エラい奴らの思い上がりは今の時代も進行形だ。

ただ、南雲ら、山本と相容れない側も、それを正義だと信じての行動なのだ。
登場する実在した人物に悪がない描写が素晴しい。
東条英機ら陸軍は具体的に登場しない)


香川照之演じる新聞記者の、開戦大賛成派だったのが
戦況の悪化により、あんなに一直線だった自分の信念(社説)に迷いを感じ、
同僚の出兵にブレる気持ちを隠しきれない。
それこそが、この時代の流れだ。


少々美化しすぎかなとも思うけど
彼が、死んでいった部下を思い、その情報を克明に記し
何よりも講和にこだわった山本の姿が、
真珠湾に突入した無念さと共に死んでいった軍人の姿こそが
時代を築いてしまった主役として、
美化ではなく純粋に希望として受け止めてもいいのかもしれない。

まぁ、私は元々、この人が好きなんで観ていて素晴しいと思うけど
また真逆な意見もあるのでしょう。
ミッドウェー、ガダルカナルの犠牲は無視できないし。

山本は、死して英雄となったものの、
生きて敗戦を迎えていたら彼の戦犯はどうなっていたでしょう。
(海軍はあんまり罪に問われてないにしても)

でも、
彼の死後この国にもたらした損失を考えると、
もしも、彼がもっと生きていたら、
そんな事を願わずにはいられない。


この戦争は終わり方さえ決められていないままどんどん勘違いして拡大してしまった。
その矛盾、無念の声が届かない、そんな恐ろしい時代。
とても恐ろしい時代があったといいう事実。
その事実を知る必要性。



「国は勝っても人は死ぬのよ」

それが全て。