「キャタピラー」

※ちょっとネタバレ注意。


日中戦争、中国戦線で重傷をおって帰ってきた夫、久蔵は
四肢切断、右頭部に大やけどを負って聴覚と声も失った。

誇り高く戦場へ向かった夫は変わり果てた姿で故郷に戻る。

その姿に発狂するも、渾身的に夫を支える妻シゲ子(寺島しのぶ)。
夫は自分では何ひとつできない身体になってしまっても
国の為、天皇の為に身を捧げた「軍神」だと
彼を支える。

食べて寝て食べて寝て食べて寝て食べて寝て。
そしてしつこいほどの性交。

夫の衰えを知らない性欲にうんざりするも
シゲ子は誇りを保つ為に夫を荷台に乗せ村を歩く。

「私は軍神様の妻です」
それだけがシゲ子を支える誇り。

だけど、やがて二人の力関係は逆転し、
しげ子はイライラを暴力で示し始める。
久蔵は、中国で女性をレイプして殺害した過去の現実への恐怖を初めて感じる。
自分に抵抗能力が無くなって、初めて感じた
罪の重さ。


だけど何だ?
「軍神」っていったいなんなんだ??

やがて迎える敗戦まで二人の壮絶な日々が続き
戦争被害者、戦争加害者を背負い、
それぞれの敗戦を考える。


この現実をギリギリの精神で受け止められたのは
天皇を本当に神だと信じていたからだろうか。

壊れそうな心を支える
部屋の高い部分に飾られる天皇と皇后の写真。
さらに天皇様から頂戴した勲章のメダル。

この天皇の写真がかなりの割合でピックアップされる。
二人は何度の何度もこの写真を見つめる。
この苦しみの元凶は本当はここなんじゃないかという現代からの
監督の訴え?的なもの感じる。

戦争で加害者で被害者となったこの青年が
結局何のせいで
生きて行く事が困難になってしまったのか。

中国人女性は本来何のせいでこんなひどい殺され方をされなくてはいけなかったのか。

寺島しのぶの演じる苦悩や絶望、心に潜む黒い感情。
これらが全て恐怖でたまらない。
罪のないこの妻が段々壊れていく速度がちょっとづつで怖い。

軽快なリズムの軍歌がジャンジャカ流れているのに
悲惨な戦場が映像には映るこのギャップが
(まるで中国映画の「鬼がきた!」の壮絶なラストシーンみたい。)
なんだか滑稽で
嘘の戦争報道を皆が信じて、
日本の勝利を確信しているのも哀れだ。


この映画のコピー
「これが戦争だ!」
ってあるけど
久蔵が中国で犯した罪とは裏腹に
敗戦時期が近づくと
原爆死亡者何万人とか日本の被害者数が字幕で出る。
そこの数字に加害者的数値が出てないような氣がするのが少し気になる。

ただ、その数字はやはりでかすぎて
その後、戦犯で処刑された人数も出て来る。

軍人と、普通の民間人にも容赦なく襲いかかった戦争「責任」
その時神様の責任は?

天皇の戦争責任ってずっと言われてるもやついた問題だけど
若松孝二がなんか言ってるんだろうな。
って思った。

しげ子に対して、久蔵が若すぎるのがやや気になるが
鬼気迫る恐ろしい演技に鳥肌がたった。
恐ろしい映画でした。

ひとつ単純に、この久蔵の四肢切断された状態の身体はどうやって撮影されたんだろう。

謎だ。