「あゝ声なき友」

銀座シネパトスにて。

ネタバレ注意。


昭和19年、
西山民次(渥美清)は招集されて上海に向かう列車の中で体調を崩し病院に搬送される。
そのまま内地送還が決まり、
同じ部隊の仲間達はこっそり家族や恋人へ宛てた手紙を彼に託す。
その後、南方へ向かった部隊は全滅し、敗戦を迎える。


日本に戻った西山は広島で家族を失っていて、
独り東京で闇米を運びながら生きていた。
託された12通の「遺書」を家族へ届ける方法を模索しながら
焼け果てて、住所も目印も曖昧な街を歩いていた。


同じように闇米を運んで、夜は体を売って生きる、山田花子という偽名を使う女(小川真由美)と出会い
同じように孤独の身となった者同士必要とした頃


この近くに住んでいた「島方」という名の戦友の細君がいるはずなんだ。
そこを訪ねてみると。


そこは焼け野原でそこの家族がどうなったかは誰も解らないと言われて家に戻ると
花子の姿がなく、一枚のメモが。

「私の本名は 島方静代 です。」


こんな形で一通の遺書を渡す事になってしまって、二人の穏やかだった生活も終わり
ここから彼の遺書を届ける旅が始まる。


みんなが前を向いて必死で戦後の混乱期を乗り越えようとする中、
定職には着かずに、お金が貯まれば日本中を飛び回った。


内務大臣だった父親は戦犯で巣鴨刑務所にいた後、実家の鹿児島へ。
遺書を手渡し、読み上げた老いた父。


「死ななければいけないのは父さんの方だ。
 僕は父さん達をうらんでいます。」


長崎で弟の帰りを待つ姉(賠償千恵子)の元へ
もしも会う事ができなかったら
毎月1日の12時、博多駅前で待ち合わせしよう。


その約束を守る姉は結婚の話も断って、毎月博多駅で、
もう死んでしまった弟の帰りを待つ。


山口では跡継ぎを失った開業医の父の元へ。

北海道では空襲で精神を壊してしまった妻(吉田日出子)の元へ。

気仙沼では、「日本に帰ったら弟の相談相手になってやってくれ。」と頼まれていた弟(志垣太郎)の元へ。

山形では戦災で逃げてきていた妻(市原悦子)の元へ。


全てを渡す事は出来ず、虚しく手帳に描く大きなバツ印。


そんな中、入院している静代の元から連絡が。
あの時、そっと抜き取って姿を消したまま
まだ、あの遺書を読めないままでいた。


「この遺書が重荷だったわ。
 でも、重荷を背負ったまま死ねないような氣がして。
 読んで下さい。」


読み上げた遺書には妻への愛が溢れていた。



この手紙を渡す事に意味があるのか?
「重荷だったわ。」


その後も、自分のしている事に疑問を抱き出したものの
情報が入れば、また出かけていく。


戦後しばらくたって、
その「遺書」が辛い事を思いだしたり
知らなくていい事を知ってしまったり、
誤解があったり

なにも、なかったり。

戦後8年、みんな戦争を忘れたがっていた。
でも、この遺書の配達を終わらないと、新しい事を始める氣にならないと。

忘れたほうが楽になれる。

何故、こんな事をしているのだろう。
それは

怒り。
怒りだけだ。



寅さん以外の渥美清を観たのは初めてでした。
当然寅さんっぽいんだけど
寅さんではない、重たいものがありました。


この配達の意味は、誰のためでもなく、
こんな苦労や悲しみを、憎しみを、国中の不幸の原点を、
その全ての怒りが原動力となって
遺書の配達人をして終わらない戦争を生きる。


ちょいちょい書いたけど
この他にも
樹木希林長山藍子大滝秀治田中邦衛財津一郎長門裕之 等々
なんとも豪華キャストですごいです。
1972年制作映画だから、若い女優陣のかわいさが半端ない。
小川真由美の演技がステキでした。


終わらない戦争をまだ続けていくという
怒りと闘志とが猛烈に伝わる
圧巻のラストシーン。
あのラストカットは、映画史に残したいくらい素晴しいものではないでしょうか。


「戦争へ行ったものは馬鹿をみたままでいいというのか!」


忘れられない西山も
また、忘れようとする同じ復員仲間も
同じように終わらない戦争がそこにはありました。


いい映画でした。