「息もできない」

※ネタバレしてると思う。

取り立て屋のサンフン(ヤン・イクチュン)と、女子高生ヨニ(キム・コッピ)の出会いは最悪だった。
サンフンが道ばたでツバを吐き捨てたら、それがヨニの胸元のネクタイへ。
かなり氣の強いヨニはサンフンを呼び止め噛み付いてビンタ。
サンフンはグーで反撃。
ヨニ気絶。
ありえないこの出会い。
人相からして悪い人丸出しのサムフンと制服を着た女子高生は
何故かそれから寄り添いはじめます。
かなり、ゆっくりと。

暴力から父親は、母親と妹を殺してしまい、
刑務所から帰ってきたばかりの父を持つサムフン。
良心のかけらもないかに見える悪い男はヒドい取り立てに毎日暴力を繰り返す。

ベトナム戦争帰りの父を持つヨニは
戦争後遺症の父の面倒をみながら、貧しい生活を送る。
弟もグレだし、母が死んだ事も理解できない父。
進学も諦め、辛い現実から逃げられないでいる。

なんとなく似た者同士が出会い、
気がついたら惹かれあい
人生に光をみつけたかにみえたが.....


かなり厚い話なんで、あらすじをうまく書けません。

韓国映画を初めて観たような氣がするけど
衝撃的で繊細で
かなりビビリました。

サムフン役のヤン・イクチュンは監督、製作、脚本、編集をこなし
自分の育った時代背景、環境を元に作ったそうです。

韓国の闇の時代と言ってもいいのかもしれない
この「父親」世代。
ベトナム戦争でただ、国の発展の為にと駆り出され、人を殺したという現実。
そして、どうしても保たなくていけない威厳。
雁字搦めな感情が暴力として現れ
それは、悲しいほどに連鎖する。

サムフンが乱暴ながらも大切にする甥への愛情や、
姉、そしてヨニへの下手すぎる自己の伝達に
こっちははがゆくも愛しさの感情が湧いてくる。


お互いの事は名前くらいしか知らないまま
チンピラと女子高生は自分達にも自覚のないまま惹かれあい、
未来をみるも
この物語は残酷な運命をたどります。

許せない、憎い父親。
どうすれば楽になれる?
忘れられる?

だけど、同じ血が流れているってその事が
なかった事にはできなくて
父親の勝手な死から救おうとする「人間らしさ」?のようなそんなものが
彼を走らせる。

国が彼らを壊したのか。
そして、その悲しい負の連鎖はいつ終われるのか。

サンフンのどうにもできない悲しみから救った
どうにもできない悲しみを背負ったヨニだけど
「連鎖」を止める事ができなかったのが
彼女に悲しみの終わりがみあたらなくて、残酷すぎた。

この映画は、笑っている時
ギターの悲しい単音が入る。
手持ちカメラでぐるぐるくるくる回る。
こんなに悲しくていいのかしら。
まるで一瞬の現実逃避だと自覚しているようだ。

「教えてくれよ、女子高生。どう生きりゃいい?」
サムフンは女子高生の膝で泣きます。
そしてヨニも。

ただ、時代のせいにしてしまえば楽になれるわけでもなく
ほんとに悲しい。


せめて愛した甥っ子に「暴力」が連鎖されない事を願うよ。



かっこよすぎたヤン・イクチュンにすっかりメロメロ(←死語)です。
悲しすぎる
実に素晴しい映画でした。

いい映画でした。