「冷たい熱帯魚」

ヒューマントラストシネマ有楽町にて。

反抗期の娘、美津子(梶原ひかり)が万引きをして捕まった。

大雨の中、店に駆けつけた父、社本(吹越満)と再婚した若い妻、妙子(神楽坂恵)の前に現れたのが
店側との間に入ってかばってくれて、更にその娘を引き取って住み込みで働いて更生させようと提案してくる大型熱帯魚店の店主、村田(でんでん)。
社本も小さい熱帯魚店を営んでいるので、村田は強引に彼らを誘い、家族ぐるみで交流を持ちかけようとする。

熱帯魚を高値で取引するうさん臭い儲け話に、有無を言わさない巧みな言葉でいとも簡単に人を騙し、お金を受け取ったら、殺す。
そんな事を繰り返す村田から妻と子供をいわば人質に取られている社本には逃げる事が許されなく、
その非道で鬼畜かつ鮮やかなまでの殺人に加担させられる。


前回の「愛のむきだし」が陽ならば今作「冷たい熱帯魚」は陰の園子温だ。
と、何かに書いてあった(ような気がする)が
ここまでいっちゃってるともはやこっちが陽ではないかと思った。

娘の反抗期に何の打つ手もなく、
妻が娘から暴力をうけてても、その妻を救う方法も解らず、
社本という男には家族を守る術がない。

村田は人を殺しては「透明」にする。
殺した人間の形をきっちり無くす。
細かく刻んで
骨を焼いて、肉片は川に流して魚の餌に、
灰は山中に撒く。
そんな風に生きてきた。
自分の足で生きてきたんだと。

何もできない社本に苛立ちを感じながら事件は最悪に進んでいく。
笑って人を殺す村田の異常性に
画面から恐怖や痛みはなく
作業のように「殺人解体」が行われる。

やがて目覚める社本の凶悪な塊は一気に爆発し、
妻と娘にも暴力的な支配を
まるで村田から伝授されてしまったかのように
感情をむき出しにする。

社本の閉鎖感は平均的というかこの国民性と言ってもいいかもしれない。
そんな社本をコントロールするのは実は簡単で
簡単に後戻りできない所まで行ってしまう。

理性も常識も全て意味を失って、
終わりしかみえなくなってしまったその時には
食事もセックスもただ本能で、
そして切ない。


でんでんがほんと全力で
全力で正直で異常が彼の中では恐らく異常ではないんだろうっていう
鬼畜を元気いっぱい演じたでんでんがスゴかった。
うるさいったらなくて、本当に不快。
無害なやさしそうな顔なんだけど
うるささが全力。
素晴しい。


なんとなく上手くやってく為に
気を使ったり、自分を責めたり、ガマンしたり。
それでも上手くいかない。

「生きるって事は痛い事なんだよ」

夫として父親として
結局何もできなかったっていう
哀れさがたまらない。

ただ度重なる残虐なシーンもここまでくると
痛みを感じない。
ただただ哀れだなって。