「奇跡」

有楽町スバル座にて。

ちょっとネタバレ注意

鹿児島で暮らす母(大塚寧々)と兄の航一(前田航基
福岡で暮らす父(オダジョー)と弟の龍之介(前田旺志郎

親の不仲で離れ離れに暮らす兄弟はいつかもう一度家族4人仲良く大阪で暮らす事を夢みて、それぞれの土地で生きる。

それは九州新幹線の開通間近の夏の事。

『上下線「さくら」と「つばめ」のふたつの一番列車が交差する瞬間に願い事を唱えるとそれが叶う。』

そんな噂を聞いた航一は弟を誘い、交差地点熊本で合流する計画をたてる。

少し理屈っぽい性格の兄と天真爛漫な弟。
兄ちゃんは、灰ばかりが降る街で「意味がわからん」と小言を繰り返しながらどうすれば家族がひとつになれるか考えているのに、
なんだかんだ楽しそうに福岡での生活を満喫している弟が面白くない。

だけど大人を巻き込んで願いを叶える為に悪戦苦闘しながら熊本までの旅費を工面して子供達の夏がはじまる。



これはただの九州新幹線開通記念の映画ではない。
是枝監督は子供を撮るのがうまい。さすが。

完全にアドリブで撮ってる子供達のかけあいがしつこくて間延びさえ感じるかもしれないけど
子供達の自然体に涙腺がゆるむ。

一緒に暮らせないからこそ生まれた兄弟の成長が悲しすぎず
まるで陰と陽の兄弟のバランスが夫婦の子供である事を説明しているようである。


みんなが確実に経験してきたあの夏の空気感。
温度や匂いまでもが伝わってきそうな素晴しい映像です。

ちびっこ漫才師の「まえだまえだ」が本当の兄弟だって事はものすごい完成度を上げてるね。
しかもおにいちゃんの演技は素晴らしい。
ずんぐりむっくりでかっこよくはならなそうな子供だけどこの子は漫才より俳優になるといいのに。
弟ものカン高い声がなんだか気にならない。
無邪気にも大人に気をつかってわんぱくに振る舞っている感じがたまらん
悲壮感がないところがまた胸を打つ。


親に気を使って母親に甘えない夜の電話。
夏の夜の背比べ。
たった一泊の旅で出会った大人たち。
ぼんやり気がつく幸せの意味。



熊本まで来て叫んだ願いは
「自分の事」ではなかった。


ちょっぴり大人になった夏。
兄弟がまた一緒に暮らせるかどうかはわかりませんが
離れていても、きちんと親の心が届いているようで、
そして兄弟がきちんと絆を確認できた夏となったようです。


子供達の脇を固めたベテラン俳優達も素晴しい。
先日亡くなった原田芳雄も近所のやかましいじいさん役で出てるけど
鉄オタとしてはこの九州新幹線にからみたかったのかな??
是枝作品常連が多数出てるのもなんだか安心です。


歳をとったせいでしょうか。
動物子供に最近弱いです。

私にもあったあの夏の日々。
刹那すぎます。


エンドロールで流れるくるりの「奇跡」はマッチしすぎで反則です。
最後まで号泣でした。



素晴しい映画でした。
夏がくるたび観たくなる映画となりそうです。